T.インゴルド 『メイキング』第一章「内側から知ること」
ユニークな著作を発表しながら第一線で活躍する人類学者インゴルドの新刊。(原著は2013年)
題名にもある通りこの著作は「つくることMaking」について人類学、考古学、芸術、建築(Anthropology, Archaeology, Art, Architecture)の4つのAを横断しながらラディカルに捉えなおそうとした試み。
第一章「内側から知ること」は全体の導入と本論のための前提の提供。
知ることとは対象として見ること(外側から見る)によってではなく、それとともに自分自身も変化しながら知識を得るということ(内側から見る)であるとインゴルドはいう。
それはグレゴリー・ベイトソンが「二次学習」と呼ぶようなもの。分かりやすく言えば
動くことによって知るのではなく、動くことこそが知ることなのだ。(p.14)
例えば自転車を「知る」ということはどのようなことだろうか。
もちろん自転車や自転車に乗っている人を観察することによって、自転車がどのような構造で動き、どのようにして足と手を動かせばペダルとハンドルはどのようして動くのかということを「知る」ことができるかもしれない。
しかし、それで「知る」ということに関して十分なのだろうか。(実際にそれだけでは自転車には乗れない。)
自ら自転車を漕ぐようになって初めて自転車がどのように動くのかを知るということが出来る。それによって自転車を知ることができる。
このような例はよく身体知の文脈で用いられるが、ここでみられるような「知る」ということは身体に限ることではない。
身体に限らず思考なども身につけることができるからだ。
これをインゴルドは「探求の技術」として呼び実践していく。
探求の技術において、思考は、わたしたちがともに動く物質の流れやその変動に絶えず応答しながら、それらとともに進行するように振るまう。(p.26)
このような方法を人類学者の宮崎宏和は「希望のメゾット」と呼んだが、インゴルドは「応答correspondence」と呼ぶ(p.27)。
詳しくはのちに示すこととするが、ここであえてインゴルドが「応答correspondence」と呼びかえているのは、これまでずっと彼が唱えてきた「線line」の概念を発展させるために適していたからであろう。
この「応答correspondence」は本書での中心的な概念であり、以下の章はそれを人類学、考古学、アート、建築の分野で説明をしながら実践していく。