Anthropology and feeling’s diary

人類学に関する本、日常で思ったことなど。

加速し残酷になっていく世界の思想(と人間性への回帰?)

 Twitterなどで話題になっていたので木澤佐登志著『ニック・ランドと新反動主義』を読んでみた。

 本を読んでいて印象に残った部分をかいつまみながら自分の感想をおりまぜて紹介したい。

 

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この本のとにかく「黒い」装丁はその思想の威力とともに、現代に生きる人びとをブラックホールに吸い込むような求心力、そしてその圧迫感のある偏狭さ、そして脆さの全てを表しているような気がする。

 

 ニック・ランドをはじめとする、カオスから生まれた奇形児のような思想=暗黒啓蒙・新反動主義・加速主義を辿ることが本書で目指されていることだ。

 

この世界を覆い尽くす資本主義に対する共産主義が1992年ベルリンの壁崩壊後、オルタナティブとして唱えることができなくなった現在。経済危機や民主主義の危機、環境問題によって崩れていく人間の「豊かな」社会。希望はもはや現在の中ではなく、存在すらしなかったノスタルジックな「過去」やテクノロジーを先鋭化させた「未来」にある。

 

90年代生まれの自分にとっては(恐ろしいことでもあるが)共感しやすい考え方だと思った。

例えばExit(イグジット、脱出)すること。

イギリスのBrexitアメリカのトランプ旋風(アメリカは独立で環境問題にも他国と足並みをそろえることもしない、再びアメリカを偉大に。というような考え方の席巻)でも見られる、現在の状況から脱出する。そしたら何かいいことがあるのではないかという考え方。European Unionや国際的な条約の取り決めは人間の英知の結果であるはずだが、それをもはや信じることはできなくなっている残酷な思想。

 

あるいは、能力がある者はどこにでも好きなところに行けばいい。

PayPalやTransferwiseなどに見られるように、金はもはや国家に信頼を依存する物理的形式をとる必要はなく、国家の枠組みを超えて瞬時に移動ができる。さらに言えばBitcoinなどの乱立する仮想通貨は経済活動に国家の介入する隙を与えない。

エストニアのE-Residencyはどこにいてもエストニアに住んでいることと同じ手続きを可能にする。

どこにいようが、同じような社会的な活動ができる。実際のところは、そこまで同じようにはいかないのだが、むしろ同じようにできるようにすべきであるという考え方には賛成しがちである。

インターネットが一般的になったとき育った世代(たぶん80年代生まれ?~)の大きな特徴は、国家を自分の存在の前提として捉えるのではなく、何か「ややこしい」ものとして捉えることにあるのかもしれないと思った。一方で、前提としないからこそ、あえて帰属を求めるような動きがあるのかもしれない。

ちなみに自分はと言えば、日本に住むことをやめて、ヨーロッパに移り住もうとしている。年金は払わない。日本の政治、経済、社会はこれから良くなるような気がしない。それに「自分が良くしよう」なんて気持ちもあまりない。(全くないと言えば嘘にもなるが)

個人性とテクノロジーを加速させていく。社会を穿った姿勢で捉え、ぬるりと避ける。

 

テクノロジーに希望があるわけではない。

それは戦後のSFに描かれるような技術信奉ではなく、なんでもできる未来への希望ではなく、突き進む技術への達観。

技術が人間の主体に従属して活躍するのではく、機械と人間の区別が明確にはなくなるようなハラウェイ的なサイボーグ。

Wiredのいくつかの記事にもこれに共鳴するようなものがいくつかある。

wired.jp

wired.jp

 

この「ダーク」な思想はアクロバティックでスリリングでありながらも、僕を憂鬱にさせた。

 

人文社会科学を専攻する自分は、この社会や人間の色々な側面を見たいと思うし、そこには「暗黒啓蒙」に回収できない微細な人間の生の現実があると信じている。

 

技術と未来に希望はあるのか。社会と人間には可能性があるのか。

「暗黒啓蒙」と同じような未来観測をしたうえで、あえて人間性(Humanity)、人間の想像力を積極的に肯定しようという活動はDouglas RushkoffのTeam Humanに見られるかもしれない。

teamhuman.fm


How to be "Team Human" in the digital future | Douglas Rushkoff

デジタルな世界が進行していったとき、カタストロフィが起きたときを考えるときに我々は悲観的になることをやめ、人間性を取り戻し、創造していこうという積極的なメッセージ。

もし自分が選ぶとしたらこちら側だろうし、そうありたい。