Anthropology and feeling’s diary

人類学に関する本、日常で思ったことなど。

東京に異世界を、デリーに近未来を

少し前に「フィリピンのスラム街の子どもたちに夢を届けたい」というクラウドファンディングが話題になって批判にさらされたのは記憶に新しい。

僕自身はまあ、内容が浅はかだなとは思いつつも、別にお金が集まったら行けばいいと思う。批判を受け止めて、少しだけでも学んで、行ったらいいと思う。

いけないなと思うのは、何が悪かったのか分からないまま人や場所に関する興味を失ってしまうことなんじゃないかな。

人類学に興味を持ちはじめた人の中にも、この大学生たちと同じような考え方をしていた人も沢山いるだろうけど、色々学んでいって視点を獲得するうちに違った捉え方で人や場所に関する興味を広げる人もいると思う。

ここでは批判点を一つひとつ具体的にあげることはしない。Twitterで回ってきた一人の意見を出発点としながらここにメモとして残しておこうと思う。

 

それはこのツイート

 

 もちろん、フィリピンのスラムと西成は違うけれど思考の方法として、こういうことが大事だと思う。

貧困とか異世界とかを想像するときに、インドとかカンボジアとかフィリピンがすぐに頭に浮かぶのは分かる。

でも、社会について色々考えてみると、自分のすぐ近く、大都会・東京にある山谷とか大阪の西成にも自分の知らない世界が広がっていることがある。

自分の中で転機になったのは書店でたまたま見つけた生田武志さんの『釜ヶ崎から:貧困と野宿の日本』を読んでからだった。それまで何となく西成や釜ヶ崎というような存在は知っていたが貧困地区なんだなくらいとしか思っていなかった。

でもこの本を読んで驚いた。自分の知らない世界がそこにはある。それから色々とネットで調べて東京には山谷、横浜には寿町だったりと「ドヤ街」は日本のいくつかの場所に存在することを知った。

山谷周辺の一人歩き

調べているうちに住んでいる場所から近い山谷に興味を持ったため、電車に乗って行ってみることにした。スカイツリー浅草寺の近く。北千住で電車を降りて、山谷の方向へ向かっていく。古くからの商店街には自家製の糠漬けを樽で漬けていて、魚屋には生きたドジョウがプラスチック製の桶で泳いでいる。あたりには腐った食材の鼻を突く匂いが漂う。商店街で一つ70円ほどの揚げたての天婦羅を食べる。

再び歩き続けると簡素な教会があって「山谷は日雇い労働者の街 再開発反対」との横断幕が掲げられていて、ついに山谷と呼ばれる場所に出たのだと分かった。

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アルコールの匂いと小便の匂いがどこからか漂ってくる。中年の男性が段ボールの上に座りながら仲間と話している。

「一泊2500円カラーテレビ付き」などと書かれた建物がいくつもある。ドヤと言われる格安の宿泊所だ。日曜の昼間だったためあまり人の姿は見られなかったけど、どれだけの人がここに住んでいるのだろう。

しばらく歩いたあと、街の雰囲気が急に変わった。吉原のソープランド街に入ったのだ。「お兄さん、休憩していかない?」とスーツ姿の男性から声がかかる。それを横目で見ながら、足早に通り過ぎる。

焦った気持ちで歩き続けると浅草寺まで出た。観光客が沢山いて、店が賑わう。まるで別の世界から帰ってきたような安心感があった。

 

少し前のことだし、ここではスペースがあまりないため詳細には書かないけど、実際に行ってみると本当に沢山の事を感じられる。ましてや例のツイートのように少しでも日雇いに加わってみればなおさらのことだろう。

 

一方でインドやフィリピンで大都会の場所だってある。デリーでは高速鉄道が走っているし、マニラの夜景は都市そのものだ。画像検索をしてみればすぐにイメージとは違う光景が広がっている。

 

自分のイメージを解体して、逆のものをそこに見出してみる。

東京に異世界を、デリーに近未来を。

ここにこそ人間の複雑な社会を見ることの面白さがあるんじゃないだろうか。

 

いや、わざわざ東京の一地域に行かなくても、自分の知らない世界がある。

僕の住む千葉でも千葉駅の高架下には数席だけの韓国居酒屋が並んでいる。いつも歩く道とは違う雰囲気がそこにはある。

大切なのは自分のイメージを解体し、いつもとは違う道を歩き、目を凝らし、想像力を働かせること。

 

社会はそこにある。

 

 関連して、以前書いた『Tokyo0円ハウス0円生活』の話。

anthropology-book.hatenablog.com